「寝る子は育つ」とよく言われますが、実は「寝る髪も育つ」と言っても過言ではありません。睡眠は、私たちの心身の健康維持に不可欠な生理現象であり、髪の毛の成長と健康にも極めて重要な役割を果たしています。毛髪科学や皮膚科学の専門家は、睡眠不足が薄毛や脱毛を引き起こすリスクを高めることを様々な研究データと共に指摘しています。そのメカニズムは複雑ですが、主に「成長ホルモンの分泌」「自律神経のバランス」「免疫機能の維持」という三つの側面から説明できます。まず、成長ホルモンについてです。成長ホルモンは、骨や筋肉の成長を促すだけでなく、細胞の修復や再生、新陳代謝を活発にする働きがあります。髪の毛は、毛包内にある毛母細胞が分裂・増殖することで成長しますが、この毛母細胞の活動を活性化させる上で成長ホルモンは不可欠です。成長ホルモンは、特に深いノンレム睡眠の間に最も多く分泌されるため、睡眠時間が不足したり、睡眠の質が低下したりすると、その分泌量が減少し、毛母細胞の働きが鈍化してしまいます。その結果、髪の毛が細くなったり、成長期が短縮して抜けやすくなったりするのです。次に、自律神経のバランスです。私たちの体は、活動時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経という二つの自律神経によってコントロールされています。睡眠不足は、この自律神経のバランスを乱し、交感神経が過度に優位な状態を引き起こしやすくなります。交感神経が優位になると、血管が収縮し、血圧が上昇します。頭皮には無数の毛細血管が張り巡らされており、髪の毛に栄養や酸素を供給していますが、血行が悪化すると、毛母細胞への栄養供給が滞り、健康な髪の毛の育成が妨げられてしまうのです。最後に、免疫機能の維持です。睡眠は、免疫細胞の働きを正常に保つためにも重要です。睡眠不足が続くと免疫力が低下し、頭皮のバリア機能が弱まったり、炎症が起きやすくなったりします。頭皮環境が悪化すると、健康な髪が育ちにくい状態となり、薄毛や脱毛を助長する可能性があります。このように、睡眠は髪の健康と深く結びついています。質の高い睡眠を確保することは、健やかな髪を育むための基本的な土台作りと言えるでしょう。