大学の講義室の後ろの席で僕はいつも帽子を目深に被り周囲の視線を避けるようにして過ごしていましたがそれは単なるファッションではなく二十歳そこそこで薄くなり始めた自分の頭頂部を隠すための必死の防御策でした。高校時代まではフサフサだった髪が受験勉強のストレスなのか遺伝なのか急激に元気を失い地肌が透けて見えるようになった時僕の青春は終わったと絶望しおしゃれを楽しむことなど自分には許されない贅沢だと思い込んでいました。ワックスなんて使えば余計にハゲてしまうし束になった髪の間から見える白い頭皮を想像するだけで恐怖に震え上がり何もつけずにペッタリとした髪で過ごす日々が続いていたのです。しかしある日行きつけの美容室で担当のお兄さんに相談したところ彼は優しく微笑んで薄毛だからこそワックスを使って動きを出すべきだよと諭し僕の髪に魔法をかけるようにハサミを入れていきました。短く切り込まれたサイドと長さを残したトップのバランスそして仕上げに使われたマットな質感のワックスは僕の頭皮を見事にカモフラージュし鏡の中にはハゲを隠している惨めな自分ではなく清潔感のあるおしゃれな大学生が映っていたのです。その瞬間僕は雷に打たれたような衝撃を受けワックスは敵ではなく僕を救ってくれる味方だったのだと気付かされました。それからというもの僕はワックスの種類やセット方法について貪るように調べ始めドライワックスを使えばベタつかずにボリュームが出せることやスプレーを併用すれば風が吹いても怖くないことなど多くの知識を得て実践していきました。もちろん最初は失敗の連続でつけすぎてギトギトになったり変な形に固まってしまったりすることもありましたが試行錯誤を繰り返すうちに自分の髪質に最適な量とタイミングを掴むことができるようになり毎朝のセットが苦痛から楽しみへと変わっていきました。今では帽子を被らずに堂々とキャンパスを歩くことができ友人とバーベキューに行っても風を気にせずに笑い合えるようになりましたがそれは髪が増えたからではなく自分に自信を持てるようになったからに他なりません。かつての僕のように若くして薄毛に悩みおしゃれを諦めている人がいるなら僕は大声で伝えたいのですがハゲているからこそ髪型にこだわりワックスを味方につけて自分を表現するべきでありそれは決して恥ずかしいことではなく自分を大切にするという素晴らしい行為なのだと。適切なケアとスタイリングを行えば薄毛はコンプレックスではなく個性の一部として受け入れることができその先にはきっと明るく前向きな未来が待っているはずですから勇気を出してワックスの蓋を開けてみてほしいと心から願っています。